病室から見ると,世の中ってのは,生き生きと見えるもんですね。建築現場の人たちや,洗濯物を干している主婦も,道行く自動車すら。また木や花や鳩も,いやー,まったくうらやましい。
随分前にお手紙をいただいておきながら,お返事できず,すみませんでした。検査でちょっと体を傷めたり(こんなんアリ?って感じです。しかし患者の身ですから医者の心証を害したくないので文句も言えません),治療薬のインターフェロンの副作用で発熱したりしておりまして,ようやくここ4,5日で落ち着いたところです。
病院ってところもなかなか勉強になりますね。いくつか大切なことを学びました。
その1 「健康と病だけでなく生と死も案外近くにある」 私がここに入院して45日。その間この内科病棟だけで5人の人が亡くなりました。特に自分と同じ世代の主婦の方が白血病で亡くなった時はショックでした。この人にはお子さんが2人。我が家の長女と同じくらいの年格好の女の子が泣いていました。
その2 「病は多様である」 当たり前のことですが,ここ内科病棟には,様々な内臓の疾患をもった人が入院しています。お年寄りの多くは複数の臓器を傷めているケースがほとんどです。昼間は元気な人も夜になると大声でうなされたりします。皆さんそれぞれ大きな不安を抱えて入院していることがわかります。他の人の心の痛みは,結局わかりませんから,患者は,一般論として入院の心構えなどを語り合いつつ,「頑張りましょう」と,お互いを励ましています。「同病相憐れむ」といいますが,同病でなくとも,人は励まし合えるものなんですね。
その3 「気力は大切」 私の病気はC型肝炎といって,肝硬変→肝臓がんと進行する病気です。治療方法は,インターフェロンの投与しかなく,これで完治する確率は3割程度です。要するに,治療しても直るかどうかわからない,ということなのです。この薬が効かないと,あとはただ病気の進行を止める薬しかありません。入院した当初,私と同じ病気の人で,今私がやっている治療と同じ治療を受けている人がいました。「治療法がこれしかないんだし,医者は安全だって言ってるんだから(インターフェロンはなかなか強い薬なんです),これを信じるしかない。くよくよ考えても体に悪影響を与えるだけで,1つもいいことはないよ」と言ってくれました。「仕事のこととか生活のこととか心配事もあるだろうけど,この際,借りは退院してから返すことにして,今は治療にいいと思うことだけに専念することだよ」と。確かに医者によると,大きい緊張が2時間も続けば,人によってはすぐ胃に穴が空くそうです。また体の細胞自身は良くない箇所があると,それを直そうとするのに,精神的に参っていると細胞の働きにブレーキがかかってしまうことがあるそうです。精神の安定・充実は思った以上に大切なんですね。そんなわけで,私もイジイジ考えるのはやめました。「医者に任せるしかない」と開き直って治療をし,考え込みそうなときは小説やエッセイや漫画を読んだりして気を紛らわせています。私にアドバイスをしてくれた人は,元気に退院しました。この人からは,「どんな逆境にあっても前向きな人がいる」ことを学びました。おかげ様で私も治療は順調に進んでいます。
その4 「看護婦という職業はスゴイ」 この仕事はすごいよ。ホントに人の命がかかってるので,注射などミスは許されないし,相当プレッシャーがかかる仕事です。トイレに行けない人のオマルの処理とか,風呂に入れない人の体を拭いてやるなど,まるで赤ん坊を相手にしているような業務も多く,かなりの覚悟と誇りがないとやっていけないものと思われます。勤務時間も交替制で不規則だし,看護婦さんに比べたら,われわれの仕事なんて「大したことないなー」と思います。30歳以降位のベテランの看護婦さんは,皆さん「芯」があって,人間的成熟を感じさせるというか,深みがあります。尊敬できる人ばかりです。まったく,自分の底の浅さが恥ずかしい。
その他,いろいろ学んだことがあるのですが,長くなるのでこの辺でヤメにします。
お互いあまり考えすぎないようにして,前向きな気持ちでいましょうね。
ではまた。
1994.4.23
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