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2006年1月19日 (木)

『足るを知る経済』安原和雄(060119)

 この本の副題は「仏教思想で創る二十一世紀と日本」。バブルのときにはちっともバブれなかったのに,バブルがはじけて不景気になったら,そのときのダメージと「負け気分」だけは共有。今もずっとそのまんま。昨今の景気回復も私には無縁でございます。か,金がねぇ〜!!!

■『足るを知る経済』(安原和雄/毎日新聞社/本体1,800円)

060119

 とはいえ,私がメチャメチャ不幸かといえばそうでなく,それなりに幸せ。つまりは家族親戚友人知人に恵まれており,お金で買えない資産が私にはた〜っぷりとある。「それなりの幸せ」なんて言ったらバチが当たるぞ,と,そんなことをこの本は改めて考えさせてくれます。近代経済学を「貪欲の経済学」と呼び,「経済成長」を目指すだけでない世界の可能性があることが繰り返し述べられています。「ゼロ成長経済」「環境尊重型社会の構想」「ワークシェアリングとゆとり」「持続可能な発展」などなど。これがかなりしっくりと来ます。黒澤明の『夢』で笠智衆さんが出てきた場面,黒澤明も安原和雄先生と同じようなことを考えていたのだなと思いました。
 多くの人がイメージできる平和で豊かな社会というのものがあるにもかかわらず,何故それが実現しないのか…。残念ながら私たちは「貪欲」という性(さが)もまた共有しているんですね。「吾唯知足」…。いろいろなことを考えます。自立・自律・共生など。一方で「いつもお利口さんでいなくてはならない社会」に,私は耐えられない。その負の部分があるがゆえに,私たちはゲーム理論で言う「囚人のジレンマ」の最悪の選択をし続けてしまうのでしょうか。
 皆様もぜひご一読を。オススメです。

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2006年1月18日 (水)

『インストール』綿矢りさ(060118)

 『蹴りたい背中』綿矢りさ(060118)が結構気に入ったので,綿矢さんの本をもう1冊読みました。

■『インストール』(綿矢りさ/河出書房新社/本体1,000円)

060118

 1月18日は,ニフティ入会記念日。14年前の話。あの頃はパソコン通信だった。2年後,C型肝炎であることがわかって,当時はフォーラムといったボードがあり,そこで病気に関するいろいろな情報を得ていたのでした。チャットもしたなあ,最初の頃は。

 あの頃から「ネットオカマ」という言葉はあったと思います。今はねインターネット。この話はネットオカマを絡ませたエロ電話ならぬエロチャットの話が中心。

「真性怠け者の私はやっぱりまだまだ得して生きたい,たとえその探究に時間を費やしすぎて,自滅するというマヌケな結果を迎えることになったとしても。」(25ページ)

 綿矢さんの文章に何故惹かれるのかわかりませんが,ともかくこの人の書く文章は美しい。言葉のリズムがいいのかなあ?

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2006年1月17日 (火)

『花眼の記』道浦母都子(060117)

 松村由利子さんの本(『鳥女』)を注文するときに,ふと目に入った1冊。

■『花眼の記』(道浦母都子/本阿弥書店/本体2,300円)

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 冬眠と言葉すり替えひきこもるこわれんばかりのこころをかばい

…なんて状態だった道浦さんが立ち直っていく軌跡。「花眼」は,《目前の現象がぼんやりかすんで見える眼,人老いて,何もかもが,ほんのり美しく見えはじめる眼,との意味がある》(「あとがき」より)とのこと。

 牡丹花は崩るるなかれ病む兄がわが家の庭に立ち戻るまで
 「さきに死ぬあなたは楽ね」渾身の姉の告白聞いてしまえり

 美しい歌も多いのですが,つい,こういう歌に目が止まる。道浦さんのお姉さんの連れ合いは「肝がん」。この本が世に出る前に亡くなられたそうです。私もこういうつらい気持ちを,他の人と,まさに心の底から共有できるようになりました。少しずつ,私もオトナにはなっているよう。そういえば1月17日は肝硬変で亡くなった母方の叔父の誕生日。

本阿弥書店

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『武器としての〈言葉政治〉』高瀬淳一(060117)

 この本のサブタイトルの「不利益分配時代の政治手法」,それと帯にある“歴代首相の政治術,「言葉」から完全査定!”…というキャッチにそそられて…。
 「不利益分配時代」ってのは,うまい表現ですねえ。確かにこれから政府は増税や社会保障のレベルダウンなどを次々とやっていかなくてはなりません。それをどう実施していくか,国民(=大衆,特にいわゆる無関心層)の支持をどう獲得していくか,というのは非常に興味深い「観察テーマ」ではあります。ま,“主権者”としては「観察」ばかりではいけないのですけれども…。

■『武器としての〈言葉政治〉 不利益分配時代の政治手法』(高瀬淳一/講談社選書メチエ/本体1,500円)

060117

 高瀬淳一先生は1958年生まれ。私と同い歳。名古屋外国語大学教授。ご専門は情報政治学。情報政治学というのが,どういう学問なのかよくわかりませんが,この本の小泉的政治手法(=言葉政治)の分析のような学問なんですかね。小泉さんはテレビ・ラジオ・メールを使い,とにかくわが国の首相としては,圧倒的に国民への語りかけが多い。そんなことを,この本では,たとえば,佐藤栄作の「テレビはこっちに来て下さい」とか中曽根康弘がパネルを使って「1人100ドル外国製品を買おう」とテレビで説明した件(あれは首相の授業のようで面白かった)とか,ブッチホンなどを挙げつつ検証していきます。懐かしい。日本政治史の勉強にもなります。
 宰相の言葉に関する諸々の分析に加え,政治学の知見もわかりやすく述べられています。軽いタイトルに似合わず,この本には,政治学という学問の奥深さというか社会科学の,砂を掴もうとするかのような営み,さらに社会的現実をどうとらえるのかといった方法論そのものを模索しているんだよ的テイストがあります。また,“定点から見る”ということを相当意識して書かれた文章が多いです。よって,政治手法の評価は,視点が一定でまさにクールであります。オススメです。
 何だかんだ言って,小泉さんはもう大宰相であり,これまでの「永田町中心の政治」から「国民の支持をベースにした政治」へと相当踏み込んだことは紛れもない事実であります(かつては細川さんに大いに期待したんですけどねえ。私は)。現役総理を高く評価するというのは,学者さんにとっては度胸のいることだと思いますが,高瀬先生は小泉首相を,「天才肌」(その政策ではなく政治手法を評価されているのです。念のため)と位置づけた上で,今後〈小泉型政治手法〉を継承する政治家(天才肌とは限らない)が出てくることを考えて,最終章で「〈小泉型政治手法〉の陥穽」に関しても述べられています。

 この陥穽に関する文章について,私はテレビの現状と似たような話なのだなと理解しました。視聴率(=支持率)は芸のない人気者でも取れる…という懸念であります。首相の権限が強化されている現在,テレビのチャンネルを選ぶようにお気軽に首相を支持していたら,とんでもないことになります。まあ,中国との関係を見れば「〈小泉型政治手法〉の陥穽」の1つはよくわかりますが。

 文章がとてもお上手で,読みやすい本です。歴代首相の写真なども多数入っています。もちろん小泉首相の写真が一番多く,ライブ版の〈小泉劇場〉の解説になっています。生々しく新鮮,面白く読めて,かつ勉強にもなりました。高瀬先生,お疲れさまでした。どうもありがとうございました。感動した!


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2006年1月15日 (日)

『下流社会』三浦展(060115)

 大学3年の娘が読み終わった本。

■『下流社会 新たな階層集団の出現』(三浦展/光文社新書/本体780円)

060115

 血液型診断の本を読むように拝読。「『下流』の男性は引きこもり,女性は歌って踊る」…なんてね。家で本を読むことと酒を飲むのが好きな夫と外出好きのツマの我が家って…,やっぱりねえ〜などと。
 著者の三浦展さんは1958年生まれ。私と同い歳。一橋大学社会学部出身でマーケティング活動を行うかたわら,家族,消費,都市問題などを横断する独自の「郊外社会学」を展開されているとのこと。「勝ち組・負け組」「希望格差社会」など,「このテの本は売れる」と確信を持ってご執筆されたのでしょうか。これまで中流だと思っていた人々が,「上流」と「下流」に別れていき,今は「下流」に流れる人が多いそうです。そうねえ〜。低いほうに流れるほうが楽だもんねえ。やっぱり。
 これって高福祉国家のモラルハザードなんですかねえ。何だかよくわからなくなってきちゃったなあ…。
 まま。というわけで,ここに書かれていることは,そんなこんなでそれなりに面白いです。話のタネになります,そういう意味ではオススメです。やっぱりね。売れてるだけのことは,まあ,あります。
 で,とりあえず,こうした傾向が広がっていくのは好ましいことではなく,どうすればいいのかという提案も最後に書いてあります。これがちょっと軽すぎるので,私は今ひとつ,大きな声で「オススメです!」といえないのでありました。

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2006年1月14日 (土)

『鳥女』松村由利子(060114)

 松村由利子さんの第二歌集。あとがきによると,第一歌集『薄荷色の朝に』から7年ぶりとのこと。そんなになるんですねえ〜。私が松村さんの歌に初めて接したのは2000年の暮れ。時間が経つのは早いなあ〜。この間に,私はちっとも変わらない。今日も二日酔い…。

■『鳥女』(松村由利子/木阿弥書店/本体2,500円)

060114

 シビレル。本当に素晴らしい。オススメです。気に入った歌の入ったページに付箋を貼っていたら,付箋だらけになってしまいました。

 うちの二女は「すみれ」という名前。名前とはちと違って,一見,ヒマワリのようなやたら明るい前向きな子ですが,内面は超繊細。そんな我が子を詠んだような歌。

 花びらは破れやすかりひらがなの名をもつ友のみんなやさしく

なんてね。もいっちょ,というか3首だけ。

 耐えかねて夜の電車にそっと脱ぐパンプスも吾もきちきちである
 自らを閉じて明るきしゃぼん玉触れてはならぬ悲しみはあり
 濯ぐべきもの多くして女らは水辺にてもの深く思えり

ふうう。そうすか〜,としか髪の薄いオヤジには言えない。私も一つ。

 またしてもシコタマ飲んで記憶なし死にながら生きている俺は

本阿弥書店


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2006年1月12日 (木)

『肝臓のなかま』(060112)


060112

 これは関西地方の肝友会の会員さんに送られている機関紙なのでしょうか。何かの手違いで私のところに届いたようです。患者の中では有名な,西村慎太郎さんが編集されていると思しき冊子。B5判・30ページ。
 トップページでは北海道B型肝炎訴訟を支える会の皆さんが最高裁の前で撮影された写真が載っています。まったくイカンで残念なことではありますが,私たちは国家の責任を追求していかなくてはなりません。B型肝炎にとどまらず,もちろん「国家の失敗」はあるわけで,そこのところを正していくという行為を,もし私たち=市民が放棄してしまえば,近代政治思想の根底である「市民と政府の契約」といった前提も危うくなってしまいます。妙な立場ですが,私たちには,国家の誤った政策の「被害者」であるが故に「政府の失敗」を追求する責務があるようにも思います。北朝鮮による拉致の被害者の皆さんの行動を見ていても同じようなことを感じます。ノホホンと為政者たちのすることを,あたかも当然のことのように受け止めている多くの市民に,この「政府の失敗」につき,考えていただきたいと切に思います。

■『肝臓のなかま』(060112)
 拝読した『肝臓のなかま』の目次を挙げると,「日肝協 これからの活動」「医療制度改革大綱と患者の療養 大運動を」「最高裁への要請行動」「第15回代表者会議報告 療養できる生活環境の保障」「特別報告『北海道における新しい肝炎対策』」となっています。治療に関する啓蒙的な役割は日肝協の機関紙に任せるとして,こちらでは政治的な記述が多いという印象です。それにしても,幹部の皆さんの活動には頭が下がります。行政部門への働きかけも大変でしょうが,さらに司法部門へもアプローチしていくというのは,私の不勉強もあるかとは思いますが,あまりこれまでされなかったことではないかと思います。

 2006年度の国の予算を巡るいろいろな議論等を見ていますと,もしかして,「憲法25条」(生存権)って,9条と同じように悪い方向へ「解釈改憲」されてないかい? と思います。我が身を振り返って「馬鹿が長生きしたって迷惑なだけ」ではありますが,一方で「優生思想」が根本にあるような法・施策にはもちろん同意できず,妙な論理になってしまいますが,であるがゆえに近代国家としては,生存権は保障されなきゃならんだろうと考えます。で,それはいいとして,でも今般の医療制度改革,雪下ろしすらできない現状を見ると,何だかなあ。「最低限度の文化的生活を営む権利」って,随分ヘッポコな権利なんだということがわかってしまいます。さらにいうと,日常生活の安全に直接関わる「雪下ろし」すら満足にできない国や地方政府を見ていると,“税金の払い甲斐がないじゃ〜ん”なんてことも思います。

 患者会の機関紙を読んで,つらつら思ったこと。やっぱり,僕らは,政府と市民の関係を問い直す時期に来ているということ。どうなればいいのかは,さっぱりわかりませんが,現状でよいということは,ないんですよね。
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2006年1月 9日 (月)

DVD『誰にでも秘密がある』(060109)

 なるほど。あまり話題にならない理由がわかりました。

■DVD『誰にでも秘密がある』(060109)
“つかまされた…”と,普通の人は思いますよね。多分。イ・ビョンホンさんは女たらしだし,チェ・ジウさんもナンだし。とはいえ,まあ,これはファン・サービスのエロチック・コメディーの失敗版として許してあげましょう(コメディではないけれど,その昔,メル・ファーラーがオードリー・ヘプバーンの魅力だけで売ろうとした『緑の館』というヒドイ作品を見たときの気分が蘇りました)。イ・ビョンホンさんに誘惑されるのをお楽しみくださいとか,イ・ビョンホンさんとチェ・ジウさんのベッド・シーンなんてそう見られないってとこで売りたいという作品です。それにつけても,台本を読んで,こりゃマズイと,イ・ビョンホンさんもチェ・ジウさんも思わなかったですかね? 断れる力関係にないってことなのでしょうか? オジサン参っちゃったなあ〜。
 ビリー・ワイルダーの『アパートの鍵貸します』とか観て,口直ししたい気分でございます。ま,ちなみに,チェ・ジウさんは,それなりに可愛かったんですけれども…。

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2006年1月 5日 (木)

『東京 肝臓のひろば』東京肝臓友の会会報第149号(060105)

 またまた番外編。あんまりタメになったのでご紹介。

■『東京 肝臓のひろば』東京肝臓友の会会報第149号(060105)

060105

 2006年の新年号。B5判・48ページ。今回も読み応え充分。本文のうち約半分が日本肝臓学会市民公開講座の講演録。泉並木・武蔵野赤十字病院消化器科部長,工藤正俊・近畿大学消化器内科教授,川崎誠治・順天堂大学肝胆膵外科教授が順に〔1〕肝臓病の診断・治療,〔2〕肝がんの早期発見・内科的治療と再発予防,〔3〕ウイルス性肝疾患,肝がんに対する外科治療〜肝移植も含めて〜について講演された内容が掲載されています。

〔1〕を拝読して,私がインターフェロンをした頃と比べ,本当にいろいろな知見も増え,治療法が増えたことに改めて驚きました。こういう情報を知っている患者とそうでない人では,かなり病気への対応に差が出てしまうだろうなあと思ったことでした。〔2〕では肝がんで命を落とさないためのコツといったことが述べられています。理論的には肝がんで命を落とさないための戦略はほぼ確立されており,要は患者がその戦略に乗れるかどうかが問題ということがわかります。〔3〕では肝切除,肝移植(生体肝移植含む)について語られています。

 今回の会報では山高定三・城北肝友会会長も寄稿されており,患者から見た治療の変遷や患者会活動のご苦労など述べられています。会長らの請願が実り板橋区で全国初の自治体による「無料肝がん検診」が実施されたときの喜びも記されています(『政策型思考と政治』を読んだ後で拝読したこともあって,市民活動の成果としても,私は感動いたしました)。

 東京肝臓友の会は全国の患者会の事務局も兼ねていますので,興味のある方には,是非1度ご連絡されることをお勧めします。いろいろな事例の相談を受け付けておりますので,きっと参考になるお話が聞けると存じます。また,希望されればお近くの患者会・専門医の紹介もしてくれます。

東京肝臓友の会
〒161-0033 東京都新宿区下落合3-14-26-1001
電話:03-5982-2150 FAX.03-5982-2151

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『蹴りたい背中』綿矢りさ(060105)

 タイトルを見て,ずっと読みたいと思っていた本。『美しき日々』のDVDを返却しがてら,GEOで100円で売っていたので購入。綿矢さん,すみません。印税は入りません。

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■『蹴りたい背中』(綿矢りさ/河出書房新社/本体1,000円)
 1月4日の午前中に『美しき日々』を見終わって,夜遅くに『政策型思考と政治』を読了。大興奮。その後,眠くなるまでということで,この本を手にとって,蒲団の中で読み始めました。

 こんなんで物語になるのか…というのが読みながらの感想。ですが。友達が別の友達グループのところに行くというシーンを綿矢さんは,こんな風に書きます。

 頭の尾っぽを振りながら,絹代は机を囲んで大騒ぎしている雑草の束のもとへ走っていく。どうしてそんなに薄まりたがるんだろう。同じ溶液に浸かってぐったり安心して,他人と飽和することは,そんなに心地よいもんなんだろうか。(16ページ)

 この文章はちょっと書けない。凄いなあ〜と感心。もう1つ。

 認めてほしい。許してほしい。櫛にからまった髪の毛を一本一本取り除くように,私の心にからみつく黒い筋を指でつまみ取ってごみ箱に捨ててほしい。
 人にしてほしいことばっかりなんだ。人にやってあげたいことなんか,何一つ思い浮かばないくせに。(87〜88ページ)

 物を見る目や感じ方,表現の仕方,文章のリズムが面白い。引用したい文章はまだまだありますが,この辺にしておきます。我が家の娘達と同じ言葉づかい。彼女らの頭の中もこんななのかな〜と思いつつ(そうだったら父としては不満。文章は好きですが),そんなこんなで文章を追っているうちに,眠れないまま翌1月5日の午前4時に読了。1月5日から仕事始めだったのに…。

 退屈しない,読みやすい文章です。外来の待ち時間や入院中のベッドでもリラックスした読書ができると思います。オススメです。


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2006年1月 4日 (水)

『政策型思考と政治』松下圭一(060104)

 『政治・行政の考え方』(2004.4.29)以来の松下圭一先生の本。A5判・約360ページ,ハードカバー。パラパラとページをめくってみて,“この本は気合いを入れて読まないといかん”とビビってなかなか手にできなかった本(BOOK-OFFで100円で購入。前の持ち主が最初の60ページぐらいに赤線をバシバシ引いており,でも,その後は力尽きておりました)。2005年末から読み始め,2006年最初に読み終わった本となりました。1991年12月発行の初版。

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■『政策型思考と政治』(松下圭一/東京大学出版会/定価3,914円)
 圧倒されました。これはすごい本です。公的職業に就いている方(特に政治家・公務員),公的職業を目指す方はもちろんのこと,全国民必読と言いたい(ムズカシイといえばそうなのですが)。おそらく東京大学出版会さんは,このタイトル・定価から見て「売ろう」とは思っていなかったんですね。「わかる人,読む必要のある人だけ読んで…」ということなのでしょうが,残念なことです。そういえば,森田朗先生の『改訂版 現代の行政』でも参考文献で取り上げられていました。さすがに森田先生は読んでおられるんですね(当たり前か)。竹内靖雄先生の『「日本」の終わり』(2005.12.10),森田先生の『改訂版 日本の行政』,そしてこの本と読んできて,随分と考えさせられました。特に「地方分権」「ナショナル・ミニマム」(憲法25条)「福祉国家」「個人」「市民」といったこと。

 松下先生のこの本を紹介する力量は私には当然ありませんが,理解した範囲で言うと,キーワードは「市民」,「都市型社会」(上意下達・政府依存から決別した社会),「自治体・国・国際機構」(「分節政治」という言葉も出てきます),「政治は調整」といったところ。
 この本の大きな幹は,都市型社会になれば,「政府」は自治体・国・国際機構となり,それぞれのレベルでの「政治的調整」が必要になる。ここで政治とは,この各政府レベルにおける《政策・制度》の模索・選択についての市民の「組織・制御技術」であり,市民の文化水準・政治習熟,いわば品性・力量の反映であるということ。市民を起点として「都市型社会の政策課題は〜(中略)〜国レベルのみにかぎられなくなっている。地域規模へと深化し,また地球規模まで拡大している。そのため,この政策制御の基準も,各政府レベルで,シビル・ミニマム,ナショナル・ミニマム,インターナショナル・ミニマムへと分化する」(351ページ)なんてことが述べられています。

 なるほどねえ。確かに患者会の活動は地域政府や国を動かし,またNGOが重要な国際会議に出席して「インターナショナル・ミニマム」の形成に影響力を持っているという,私の知っている僅かな事実を見ても,市民を起点として自治体・国・国際機構というそれぞれの「分節政治」に影響を与えることは可能となっているんですね。そして驚くのは,松下先生はこの分節政治への道を,われわれが,まるで需要と供給が一致する市場の調整過程の上にいるかように,ほぼ「必然的」に進むと考えられていること。それぞれに「政治」があるので当然すったもんだはするけれど,それでも何十年も経って後ろを振り返って見れば,政治はそれなりの成果を出すという確信がおありです(少なくとも大衆の過半数がほぼ満足する程度には…ということなのでしょうが)。

 戦後の焼け跡からすったもんだしつつそれでもここまで来た日本の過程,環境問題に対処しようとする国際的枠組みや制度の確定を模索する動き,これらに思いを致すとき,確かにそれはそうなんだろうと思います。自分のしていることや,国内問題ばかりに取り組んで外国との関係に気を遣っていないかに見える現在の日本政府のことを考えるとイライラもしますが,個人が生きるにも「政治」がからむことであれば,そんなにイライラしても仕方ない,なんて卑近なことを改めて思ったりもしました。

 と,まあ,以上のような大枠だけの話であれば,普通に感動するだけで終わってしまうところなのでしょうが,この本の凄いのは,「政策開発と管理・行政」「政策費用と財務・財政」「政策実現の手法・手続」「政策の実効・演出・転換」など各論も充実していること。本書全体がそうなのですが,よく整理された文章や図版が使用され,重要なことが次々に語られていきます。人が2人いれば政治が生まれるので,そうした観点からだけ読んでも相当に参考になります。参ります。オススメです。すごい学者さんが書かれた本なのでビビる部分が多いですが,松下先生のお人柄(ユーモアもかなりおありな方ではないかと思います)がチラッと見えるような文章を最後に引用しておきます。

「いわゆる日本文化は,床の間を正面にすえ,塀に閉ざされた,〈屋内文化〉であった。日本の人々は花を愛すといっても,床の間の切り花であって,街角には花はなかった。また日本の人々は緑を愛すといっても,塀にかこまれた庭の緑で,都市には緑もない。市民文化ないし公共文化としての広場・公園をつくれなかったのである。これが,政治専制において,屋内文化を楽しみえた,庶民文化の構造であった。『鬼は外,福は内』ではないか」(356ページ)

 鬼は外,福は内…。うまく使ってくれています。私たちは伝統的に公共心ってものがないかあ〜なんて思ってしまうとともに,今の若い人たちの狭い「ウチら意識」の原点を見る思い。それと,15年前に書かれたこの文章を読んで,人工的とはいえ,花も緑もある我が家近辺が造成されたことに感謝。どういう主体間の政治の成果なのかは,ちっとも知らないのですけれども…。

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DVD:『夢』『まあだだよ』『八月の狂詩曲』『美しき日々』(060104)

■黒澤明,チェ・ジウ(060104)
 ちょっと番外編。2005年暮れから2006年年明けにかけて,年越しと新年のご挨拶の合間にどどっとDVD鑑賞。黒澤明とチェ・ジウ。

●黒澤明:『夢』『まあだだよ』『八月の狂詩曲』
 どれも小品。でも,黒澤明はスケールの大きくない作品も上手(『夢』はストーリー性がないのでちょっと異質ですが)。『素晴らしき日曜日』『生きる』『生きものの記録』『どですかでん』など。
 『夢』はまさに黒澤明の頭の中を小出しに見せてくれたような作品で,黒澤ファン向け(なので興行的に大成功するとはちと思えない)の小品。画面がとても綺麗であります(有名な,ゴッホの絵の中を寺尾聰さんが走り回るシーンだけでなく)。井川比佐志,いかりや長介,笠智衆さんなんてところに,“思い”を語らせてもおります。一方で,根岸季衣さんがいい味を出しており,また井崎充則君もいかにも黒澤明好みの子役という感じでよろしゅうございました。
 『まあだだよ』は,ほんわかしたよい作品ではあります。素直に観て,温かい気持ちになっておればよいのでしょうが,黒澤明監督作品をいくつも見ているせいで,何だか物足りない。香川京子さんが可愛らしく,井川比佐志さんが手堅い以外は,所ジョージ(私にはとてもあの時代の人には見えません),小林亜星(???),寺尾聰さん(私には何故この人を黒澤監督が重用したのか理解不能。『夢』では黒澤さんの化身と思われる役を演じておられたので私にはわからない“思い入れ”がおありだったことはわかるのですが)がどうもしっくり来ない(板東英二さんには申し訳ないですが,あのシーンにも超ガックリ)。松村達雄さんもいい味は出ているのですが(猫がいなくなって凹んでいたところの演技は最高!)…。かつて黒澤作品に出ていた志村喬さんとか千秋実さんとか藤原釜足さんとかがいらっしゃらないのがいかにも淋し〜い感じがしてしまうのです(亡くなられた方もいらっしゃるので仕方ないですが)。三船敏郎,加東大介,伊藤雄之助,左卜全,東野英治郎さんとか…。仲代達也さんもどこかに出てほしかった。松村さんがミンナに御礼を言う(これも黒澤さんの心情の表明のように私には見えました)シーンか何かでうまく入れてほしかったなあ。
 『八月の狂詩曲』もいい作品でした。『生きものの記録』や『夢』でも語られた平和に関するメッセージを美しい音楽とともに伝えてくれています。中学生の娘をはじめ子供たちに是非見せたい作品。村瀬幸子さん(すごいキャリアの女優さんのようですが,私はこの作品で初めて見た気がしました)と根岸季衣さんがいい感じ。でも吉岡秀隆さんは,はまっていない気がしました。残念ですが。

●チェ・ジウ:『美しき日々』
 DVDで8本(全24話)。チェ・ジウとイ・ビョンホンが主演。その他,私はよく知りませんが,有名らしいリュ・シウォン,イ・ジョンヒョンさんも出ています。お話の内容,ツクリについてはともかく(『冬のソナタ』『天国の階段』と,この作品で記憶がゴチャゴチャになるのミエミエ。シチュエーション,話の展開,出ている役者さん,みんな似すぎ),チェ・ジウさんは本当に綺麗な人であります。実は私は,彼女の声も大好き。満足。満足であります。次の課題は『誰にでも秘密はある』(やば。これもイ・ビョンホンとの共演だ)でございます。

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