『武器としての〈言葉政治〉』高瀬淳一(060117)
この本のサブタイトルの「不利益分配時代の政治手法」,それと帯にある“歴代首相の政治術,「言葉」から完全査定!”…というキャッチにそそられて…。
「不利益分配時代」ってのは,うまい表現ですねえ。確かにこれから政府は増税や社会保障のレベルダウンなどを次々とやっていかなくてはなりません。それをどう実施していくか,国民(=大衆,特にいわゆる無関心層)の支持をどう獲得していくか,というのは非常に興味深い「観察テーマ」ではあります。ま,“主権者”としては「観察」ばかりではいけないのですけれども…。
■『武器としての〈言葉政治〉 不利益分配時代の政治手法』(高瀬淳一/講談社選書メチエ/本体1,500円)
高瀬淳一先生は1958年生まれ。私と同い歳。名古屋外国語大学教授。ご専門は情報政治学。情報政治学というのが,どういう学問なのかよくわかりませんが,この本の小泉的政治手法(=言葉政治)の分析のような学問なんですかね。小泉さんはテレビ・ラジオ・メールを使い,とにかくわが国の首相としては,圧倒的に国民への語りかけが多い。そんなことを,この本では,たとえば,佐藤栄作の「テレビはこっちに来て下さい」とか中曽根康弘がパネルを使って「1人100ドル外国製品を買おう」とテレビで説明した件(あれは首相の授業のようで面白かった)とか,ブッチホンなどを挙げつつ検証していきます。懐かしい。日本政治史の勉強にもなります。
宰相の言葉に関する諸々の分析に加え,政治学の知見もわかりやすく述べられています。軽いタイトルに似合わず,この本には,政治学という学問の奥深さというか社会科学の,砂を掴もうとするかのような営み,さらに社会的現実をどうとらえるのかといった方法論そのものを模索しているんだよ的テイストがあります。また,“定点から見る”ということを相当意識して書かれた文章が多いです。よって,政治手法の評価は,視点が一定でまさにクールであります。オススメです。
何だかんだ言って,小泉さんはもう大宰相であり,これまでの「永田町中心の政治」から「国民の支持をベースにした政治」へと相当踏み込んだことは紛れもない事実であります(かつては細川さんに大いに期待したんですけどねえ。私は)。現役総理を高く評価するというのは,学者さんにとっては度胸のいることだと思いますが,高瀬先生は小泉首相を,「天才肌」(その政策ではなく政治手法を評価されているのです。念のため)と位置づけた上で,今後〈小泉型政治手法〉を継承する政治家(天才肌とは限らない)が出てくることを考えて,最終章で「〈小泉型政治手法〉の陥穽」に関しても述べられています。
この陥穽に関する文章について,私はテレビの現状と似たような話なのだなと理解しました。視聴率(=支持率)は芸のない人気者でも取れる…という懸念であります。首相の権限が強化されている現在,テレビのチャンネルを選ぶようにお気軽に首相を支持していたら,とんでもないことになります。まあ,中国との関係を見れば「〈小泉型政治手法〉の陥穽」の1つはよくわかりますが。
文章がとてもお上手で,読みやすい本です。歴代首相の写真なども多数入っています。もちろん小泉首相の写真が一番多く,ライブ版の〈小泉劇場〉の解説になっています。生々しく新鮮,面白く読めて,かつ勉強にもなりました。高瀬先生,お疲れさまでした。どうもありがとうございました。感動した!
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