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2006年5月 5日 (金)

『海鳴りの底から』(上・下)堀田善衛(060505)

 文庫で,上巻約400ページ,下巻約350ページという長編。島原の乱を題材にした小説。1960年〜61年の“安保の時代”に『朝日ジャーナル』に連載されたもの。

■『海鳴りの底から』(上・下)(堀田善衛/朝日文庫/定価=上:770円,下:710円)

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 遠藤周作先生の小説などを読んで10代の頃から興味のある,キリシタン関連の小説。遠藤周作先生の,たとえば『沈黙』では,どうしようもない男・キチジローの“魂の救済”が大きなテーマになっておりましたが,この小説には,そうした“個”を超えたテーマがベースにあるように思います。毎度不勉強で情けないですが,あの時代にこの小説を,堀田さんはどういうおつもりで書かれたのでしょう。しかも文芸誌でなく『朝日ジャーナル』に。結末のわかっている歴史物語を。

 この物語を読みながら,ジョン・ロックの「抵抗権」,イェーリングの「権利のための闘争」などといったキーワードが何度も頭に浮かびました(ただし,島原の乱は,ロックやイェーリングより前の時代の出来事)。

 「人には生まれながらに幸せになる権利がある」といった天賦人権説的“題目”を,ほぼ無批判に信じられるようになる前には(独裁的為政者を対象とした)「権利のための闘争」が必要であったし,現在も権利は不断の努力で守って行かなくてはならないものだと思います。ただし,「万人の万人に対する戦闘状態」(ホッブズ)ですとか「男は表に出れば7人の敵がいる」といったことも世の“常態”であって,たとえば国会に見るような闘争が繰り広げられ,そこで得られる結論やそこで決められた制度が多くの一般人に支持されるかどうかは定かでないのは当然です。それでも日本では,ここまでの制度ができ,「ほんとか〜?」という思いを禁じ得ませんが,大衆の支持する政党が政権を担い,国政を運営してきていることは,誇っていいことだと考えます。内閣機能の強化=大統領制・独裁への接近と思っている私としては,現状が望ましい方向への歩みなのか,判断しかねてはおりますが。一方では決断のスピードを早くすることも大事だとも思ってまして…。

 この5月1日には,その大統領制を採用している全米で100万人以上が「不法移民の合法化」を訴えたデモに参加したとのこと(正義ってムズカシイノダとこれを題材に子供たちと話し合いたい)。また,フランスでも昨年,移民問題に関連して大きな暴動があり,非常事態宣言が発令され,各地で夜間外出禁止令も出されたとか。デモや暴動の是非は置いておくとして,人民次第で政治的圧力を時の権力者に与えることは可能ではあるんですよね。やはり。

 さて,小説としての面白さですが,小説の間に「プロムナード」という小エッセイが挟み込まれてまして,作者によればムソルグスキーの「展覧会の絵」をイメージしたそうですが,それは成功していると思います。この物語の主人公は殉教の“熱狂”に溶け込めない絵師・山田右衛門作(えもさく)。この小説にはいろいろなテーマが潜んでいるようですが,私が特に印象深かったのはキリシタンが喜んで死んでいくこと,拷問もできれば,より過酷なものを望んだことがさらりと書かれた部分。殉教者にはまったく失礼な例えで恐縮ですが,彼らは「シラフなつもりのヨッパライ」状態だったと考えることは,的はずれではないように思います。端から見れば,信仰も信念なんてものも,そんなものなのでしょう。でもそれらがなければ,変革はないんですね。大きな過ちもないでしょうが。踊るアホウと見るアホウのどっちになるか,重大な局面で,われわれは揺れます。山田右衛門作のように。この辺が深〜く描かれています。

 またキリシタンの側だけでなく,一人で突撃して“犬死”した板倉重昌のあり様なども,様々なしがらみが丁寧に描かれていて納得できます(トノもツラい!)。そんな記述を読みながら「これって特攻隊?」,農民軍は天草四郎を神と仰ぎ一丸となっていたこと=「みんな天皇の子だった戦中の日本?」などいろいろなことを考えました。その他,日本では外国から入ってきた宗教を自分たちの都合のよいように変形して土着させてしまう,なんてことも描き込まれています(同感。ですが,宣教師のほうもワザと既存の仏教の概念を利用したと私は思っています)。重〜い小説ですが,オススメです。

 ちなみに,これは娘の大学の経営学の先生の推薦図書でした。先生はどういうおつもりでこの小説を学生にオススメになったのでしょうか? まあ,学生がどう読むにせよ,何がしかの栄養になることは間違いない作品ですが。先生がこの小説についてどんな感想をお持ちなのか,ちょっと知りたい。


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リンク: 元C型肝炎患者のホームページ


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